
会社組織というのは、コストカットが大好きです。
コストカットに成功すれば、利益が大きくなるからです。
賃金も例外ではありません。
例えば、従業員の生産性を向上させて残業をゼロにすることができれば、残業代を支払わずに済みます。
これは、残業そのものをゼロにできたことの結果ですので、何も問題ないですよね。
しかし世の中には、従業員に残業をさせておきながら(つまり残業代を払わないといけないのに)、あれやこれやと言い訳を述べて残業代を払わないでおこうとする不届きな会社が存在します。
ということで今回は、今までに僕が経験した事件(従業員側から依頼を受けたもので、勤務先に対して未払賃金の請求をした事件)で、会社側が言い放った言い訳を3つ紹介します。
「勤務先が全く残業代を払ってくれない」と悩んでいる人のお役に立てればうれしいです。
その1「残業は禁止していた」

「残業禁止だったのに残業したんだから、さすがに残業代は払われないだろう…」
そう思われるかもしれませんが、実はそう単純な話ではないのです。
たとえば、勤務先が「残業、ダメ、絶対!」と言いながら、残業しないとできない業務を指示してきたらどうでしょうか?
どう考えても無理ゲーですよね。
ほかにも、勤務先が「残業、ダメ、絶対!」と言いながら、従業員が残業しているのを黙認していたらどうでしょうか?
ほんとに残業禁止するつもりあるの?と思いますよね。
「残業禁止だったのにそれに反して残業してたんだから、残業代は払わん!」という主張が簡単に通るなら、会社はとりあえず形だけ残業を禁止しておくことで、簡単に残業代の支払いを免れることができてしまいます。
裁判で残業禁止命令が争いになった場合、残業する必要性(業務の種類や期限が設定されていれば期限、業務の量など)や、残業が生じた場合の使用者の対応(ほかの労働者への引き継ぎ、代わりの措置の有無)などを踏まえ、残業禁止命令が形だけのものになっていないかどうかが判断されます。
参考裁判例:神戸学園ミューズ音楽院事件(東京高判平成17・3・30)
これは、従業員が残業禁止命令に反して残業した場合に、その従業員からの残業代請求を認めなかった裁判例です。
ただ、この裁判例では、会社が従業員に残業禁止命令を繰り返し発しており、なおかつ、残りの業務がある場合は役職者に引き継ぐことを徹底していたことが認められています。
会社が労働者に残業をさせないような対応をきちんとしていたからこそ、残業禁止命令に反した残業について、労働者からの残業代請求が否定されたということです。
形だけ残業を禁止する「なんちゃって残業禁止命令」になっていないかどうか、しっかり見極める必要があります。
その2「残業するように言ってないのに、勝手に残業した」

こう言わなくちゃいけないマニュアルでもあるの?と思うくらい、よく使われる言い訳なのですが、裁判実務上ほぼ通用しません。
会社が従業員に対して残業するよう言ってなかろうが、事実として会社は従業員に働いてもらって(つまり労務の提供を受けて)いるわけです。
その対価である残業代を請求された段階になって、「残業を命じてないから払わん!」と弁解しても、よっぽどのことがない限りは後付けの言い訳にすぎないことになります。
裁判例でも、明示の時間外勤務命令がなかったとしても、会社側で労働実態や時間外に勤務していた事実を認識していれば、時間外勤務の黙示の指示があったとされたものは数多くあります。
寝言は寝て言えってことです。
その3「残業の申請がされていない」

残業について、会社が申請制や事前申請制にしているのなら、申請しない従業員が不利益を被っても仕方ないんじゃない?と思われるかもしれません。
しかし、これも結局は、実際に残業が申請の有無にかかわらず行われていた実態や、そうした状況を管理職が黙認していたという実態などから判断されることになります。
これまでの話とも共通しますが、大前提として、会社は従業員に働いてもらって(つまり労務の提供を受けて)いるわけです。
申請制や申告制が職場において厳格に運用されているのであれば、そもそも申請のない残業自体が発生しないはずです。
なぜなら、そういう会社であれば、従業員が申請せずに残業していたら普通は上司が注意指導するはずだからです。
ところが、実態として、その制度が形だけのものであったり、ただの残業代節約のための方便であったりするからこそ、申請がない残業が行われるのです。
そうであれば、会社が従業員に対し、残業代を支払うのは当然といえます。
参考裁判例:かんでんエンジニアリング事件(大阪地判平成16・10・22)
会社の就業規則に「従業員は所属長から時間外勤務を命ぜられた場合、所定の用紙に必要事項を記入し所属長の認印を受けなければならない」と規定されていたのですが、従業員はこの手続きをせずに残業していました。
ところが裁判所は、従業員が、会社から所定労働時間内に終えることができないような業務を与えられていたこと(つまり残業の必要性があったこと)、会社が時間外労働についてタイムカード等の客観的な資料を用いておらず、事実上、時間外労働の申告を抑制していたとみるべきこと等から、従業員の未払賃金の請求を認めました。
これに似たような会社の言い訳として「残業は許可制だったのに許可を得ていない」というものがあります。
結局これも同じで、実際に許可を得ていなかったとしても、実態はどうだったのかという観点から判断されます。
会社が残業代を払ってくれないときはどうすべきか?
身も蓋もない話なんですがね、
そんな会社、さっさと辞めなはれ(笑)
いやいや、もっと弁護士らしいアドバイスを!と思われるかもしれませんね。
もちろん、弁護士に依頼するなどして残業代請求はするべきなのですが、それでは根本的な問題解決にはなりません。
なぜなら、組織の体質や意識、考え方はそう簡単には変わらないからです。
これまでに紹介したような言い訳をする会社というのは、労務管理がいい加減、労務の知識に欠けているということのほか、従業員からいかに労働力を搾取するかという意識があります。
そういう会社に何かを期待するのは無駄です。
だいたいそういう会社は、従業員から残業代請求を受けると、「なんであんな仕事もできないヤツに残業代なんて払わないといけないんだ!」とかなんとか、いろいろと悪態をつくんですよ。
そんな会社に、あなたの貴重な人生、労働力を捧げるのは馬鹿らしいです。
すぐに転職、というのはリスクがあるかもしれませんが、転職活動にはリスクはありません。
条件がいい会社が見つかれば転職し、そうでなければ転職しなければいい話だからです。
とにもかくにも、現状を変えたいなら、行動するしかないです。
今の会社に不満があるなら、転職エージェントに登録してみるとか、いますぐにでもできる行動がたくさんあります。
脱、社畜☆
以上です、裁判長。